彦根に唯一残る銭湯「山の湯」。破風造りの玄関をくぐると、タイムスリップした感覚に。

今はなかなか見かけないレトロなものが多く残っている。

138年前、明治12年(1879年)に創業した銭湯、山の湯。
明治12年というとちょうど琉球藩が沖縄県になった年。まだ東京に鉄道が引かれ始めたばかりの頃、そんな時代から彦根の地にある。
2017年の今も同じ場所で営業し、彦根で唯一の銭湯となっている。

井伊家御用達の秘伝の湯

山の湯といえば、赤褐色の『薬湯』が名物である。

彦根史談会編(2002)『城下町彦根―街道と町並―上田道三が書いた歴史風景』サンライズ出版

この薬湯は創業以来、経営者が何度か変わっても、受け継がれてきた秘伝の湯。
現経営者いわく、「井伊家の担当医が調合した薬湯で、湯冷めしにくい湯」だそう。
また、山の湯で使用している水は地下水。軟水で水質がとても良く、この水で沸かした湯に入れば湯冷めしにくく、体にいいそうだ。
たしかに、毎日のように山の湯に通っている近所のおばあさんたちはとても元気だから納得だ。

いつの時代も変わらぬコミュニケーションの場

多くの人が思うことかもしれないが、一般の家にお風呂があるのが普通の現代に、銭湯が生き残っているのはなぜなのだろう?

その答えは、山の湯に来ると少し分かるような気がする。

女湯のお客さんの多くが高齢者で、決まった時間に行くと毎回同じ顔ぶれである。よく会う常連のおばあさんと話していたとき、「ここに来なかったら誰とも話さない1日になる」という言葉を聞いたことがあった。毎日決まった時間に行くとお馴染みの人たちとお喋りをできるという楽しみがあるのだ。

60~70代のお客さんが多い中、時々子連れのお客さんもやってくる。
子連れというと「お母さんと子ども」というイメージだが、山の湯では「お父さんと子ども」が多いそうだ。
普段ゆっくり向き合う時間が少ないお父さんが子どもとお風呂という場ならコミュニケーションをとりやすいということなのかもしれない。

本来はゆっくりお風呂に浸かることで体の疲れをとる癒しの場所。
現代の銭湯は、それに加えて「人と関わるコミュニケーションの場」、「居場所」という機能としても必要とされ、今もなお生き残っているのだと思う。

138年間、同じ場所でいろんな時代を乗り越えてきた山の湯。
時代は変化しても、銭湯が人の癒される場であるということは変わらない。ここへ来れば、そのことに気付くだろう。


山の湯

滋賀県彦根市中央町7−33
TEL:0749-22-6020
営業時間:15:30~21:15
定休日:木曜日
入浴料:12歳以上430円、6歳~11歳150円、5歳以下100円

(市民ライター 久保さゆり)

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