学生向け地域滞在型アートアワード「HIKONE STUDENT ART AWARD」この夏、彦根を一生モノの出会いの場に

井口皓太氏(CEKAI / HACクリエイティブディレクター) × 酒井博基氏(HAC総合ディレクター)対談

2017年、彦根市で「HIKONE ART CASTLE (通称:HAC)」が開催される。多彩なアーティストを招いてのアート展と、美術系の学生を対象にした地域滞在型のアートプログラム「HIKONE STUDENT ART AWARD」。現在、アワードでは全国から参加者を募集中だ(~7月23日まで)。審査委員長を務める井口皓太氏(CEKAI)と総合ディレクターの酒井博基氏に、開催に向けての思いを聞いた。

人と人のつながりを目的にしたアートプログラム

まず、この「HIKONE STUDENT ART AWARD」(以下、アワード)について教えてください。
酒井
ひと言でいえば、地域滞在型のアートプログラムです。書類審査を通過した20名の方々に彦根に滞在してもらって、制作しながら地元の人や講師陣と密に交流してもらいます。最終的には作品を井伊家ゆかりの場所で展示してアワードを行う。その分の交通費や宿泊費はこちらで面倒みますよという太っ腹な企画ですね。とにかく面白い美大生はポートフォリオを引っ下げて彦根に来てよってことです。
井口
彦根って実験的に人が集まって面白いことをするにはとてもいいまちだと思うんです。中心にどーんとお城があって、そこでインパクトのあることをすれば自然と周囲にインフルエンスしていく。まちのつくりがすでにそうなっている。今回は打ち上げ花火的なイベントではなくて、参加者と地元の人たち、僕ら仕掛けた側が今後も関係を維持していけるような密度の濃いプログラムを考えています。応募して賞をもらって終わり、じゃない。
酒井
そうですね。通常アワードって競うためのものですが、これはどちらかと言えば滞在期間そのものに価値があると思ってもらえるといい。学生同士の交流に加えて、新しい土地での出会いもあり、講師として参加するトップクリエイターにふれる機会でもある。そのための勉強会や交流会を多く設定する予定です。作家としても今後の進化につながる貴重な体験になると思います。

今回「HIKONE STUDENT ART AWARD」では、審査委員長を務める井口皓太氏。
審査員には(株)スマイルズ代表の遠山正道氏や、アートプロデューサーの山口裕美氏も名を連ねる。

きっかけは、多彩なアーティストが一堂に会してつくったプロモーション映像

もともとこの企画はどういった経緯で生まれたものなんでしょう?
井口
彦根で410年祭をやることはすでに決まっていて、はじめはプロモーション映像をつくる話をいただいたんです。彦根の文化や歴史を学んだ上で、地元の方々の要望を取り入れていくようなクラフト的なつくり方を求められていたこともあって、最終的にうち(CEKAI)で引き受けることになりました。
こちらのPV、昨年末(2016年12月)に公開されてずいぶん話題になりましたよね。
井口
実はこれ、いろんなクリエイターが集まって、3ヶ月ほどでわーっとつくった映像なんです。HIFANAや鎮座DOPENESSなどミュージシャンが参加しているだけでなく、彫刻家の淺野健一さんや、書家の前田鎌利さん、アートディレクターにイラストレーターのMAHAROさん、他にも映像クリエイターやグラフィックデザイナーなどさまざまなジャンルのアーティストが集結して一気にまとめました。

CEKAI「彦根に集え!」

酒井
この時にできたコンセプト「彦根に集え!」を現実的にどう実現していくかという課題があったんですよね。それでアートイベントはどうだろうと。PVに関わったアーティストを核にして、輪を広げて全国から美大生など面白い人たちが集まったら盛り上がるんじゃないかって。従来のアート展と違ってレジデンスの手法を取り入れたのは、彦根という土地と参加者の関係をいかにつくるか? がキーだったからです。
井口
もともと 2020年のオリンピックに向けて全国にアピールできることをしておきたいという市の明確な意図はあったんです。ただ僕が気になったのは、最近どこも地方創生の流れで、地域の個性を出すことにやっきになっているんじゃないかってこと。映像をつくる上でも彦根らしさは大事にしましたが、無理に地域の売りを前面に出すより、全国からみんなで集まって楽しもうよっていう空気感をつくる方が自然じゃないかと思えたんです。

この日訪れた京都のCEKAIのオフィスにも常にさまざまなクリエイターが出入りしている。

アートがまちに残せるものは、人のつながりの創出でしかない

酒井
アートがまちに何を残せるかと考えると、人の出会いの創出でしかないと思ったんです。集まってくる人との出会いもそうだし、地元の人同士も今までとは違ったつながり方ができたり。コミュニケーションの媒介としてアートを活用しようと。
井口
結局プロモーション映像がちょっと話題になったとか、アートイベントをやったからと言って、簡単にまちの何かが変わるわけじゃないことは地元の人たちの方がよくわかっているんです。もっと長いスパンで物事を見ている。
酒井
そうですね。だから410年祭は今年で終わっても、HACは来年以降も続けようという話になっています。人と人のつながりをつくって、徐々に彦根がみんなの場所になっていったらいい。彦根って滋賀大や県立大などがあって大学生がたくさんいるんですが、社会人になる時に外に出ていってしまうのが課題で、学生さんたちが彦根でもこんな面白いことできるじゃんって思ってもらえることも一つの目標です。

総合ディレクターを務める酒井博基氏。CEKAIの他に所属している(株)モーフィングは、アート領域に特化したクリエイティブやメディアプランニングを行う会社でアートや地域のコミュニティイベントはまさに得意分野。

人が集まった時に生まれる熱量が、まちのエネルギーになる

井口
ひと昔前の裏原や渋谷系のカルチャーって、音楽やファッションなどのアーティストが密度濃くコミュニケーションを取ることでその熱量がムーブメントをつくってきましたよね。今東京では場所を起点に熱量が生まれることはあまりないけど、たとえば今CEKAIが拠点にしている京都はサブカルが生まれる雰囲気をすごく感じるし、彦根もそうした文化の発信地になれるんじゃないかと思ったりします。
酒井
僕自身、学生時代に参加した建築のサマースクールがものすごく記憶に残っているんです。ドイツのバウハウスの学生を佐賀県に招いて、日本の建築系の学生20人くらいと地元の左官屋さんなど職人も加わりワークショップを行うのですが、これが本当に密度の濃い時間で。おかげで佐賀は僕にとって今も特別な場所だし、後に起業する仲間と出会ったのもここ。後で考えると、大きな転機になっているんですよ。そうした場を用意することが、関わった人やそのまちの熱量になるんじゃないかと思うんです。
井口
そうそう。どうコミュニケーションを加速させて熱量をつくっていくかが大事で。これが彦根独自の文化になっていったら面白い。
酒井
後で思い返したときに、あれこのメンバーが出会ったきっかけって何だっけ?あの時の彦根のさ……って話ができるようになったらいいですよね。PVに参加してくれたアーティストも、制作して終わりではなくて、アート展でまた彦根に集って関わって。そういう人と人、人と土地の接点や関係づくりをしています。

作品の募集テーマは「不易流行」とのことですが、求める作品のイメージはありますか?
酒井
不易流行って、温故知新と似ているようで少し違う。いつの時代も変化しない本質的なものを追求しつつ、これからの未来へとつながる新しい価値を創造するという意味です。伝統って常にイノベーションの連続によって成り立っていると思うんです。伝統という文脈の中に生きていながらも、過去から未来を串刺しにして見るようなロングな視点をもった作品、というのが今回の出題意図。過去を振り返るだけではお城ってただの遺産ですけど、これから未来に向かって生かせる施設としてどう使っていこうと考えることはとても自然なことですよね。

井口
彦根市としてはもしかしたら屏風とか、冑とか、お城に置く上でわかりやすいものを求めているかもしれませんが、僕は「和」にはこだわらなくてもいいと思っています。それより2020年のオリンピックで海外から多くの人が来るっていう今、どんな風に日本を切り取るのか。今この時代を生きているクリエイターだったら当り前に感じたり考えたりしているようなことを反映した作品になっているといいんじゃないかと思いますね。
酒井
そうですね。アワードって側面もあるけど、僕らのようなクリエイターや地域の人たちとのコミュニケーションの場としてもこの機会を利用してほしい。ここで声がかかって新しいチャンスに結びつく可能性だってゼロではないので。僕自身、とても楽しみにしています。

現在、「HIKONE STUDENT ART AWARD」は参加者を募集中です。
全国の美術系の大学や専門学校を中心に学生を対象にした、公募型彦根市滞在アートプログラム。我こそはと思う方の応募をお待ちしています。

応募はこちらから。
https://hikone-art-castle.jp/award/

応募受付期間:2017年 6月20日(火)~7月23日(日)

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