架空の国の絵師になって、彦根城へ贈る屏風をつくっています

イラストレーターMAHAROがHACに期待すること

いよいよ9月23日に開幕する「HIKONE ART CASTLE(通称:HAC)」。「城・戦国江戸期の不易流行表現」をテーマに4人のアーティストが彦根城・天秤櫓に作品を展示する。9月上旬、出展者一人であり、国宝・彦根城築城410年祭のプロモーション映像「彦根に集え!」のアートディレクターを務めたイラストレーターのMAHAR0氏に、HACや制作にかける思いを聞いた。

HACとの関わりは、井口監督との出会いがきっかけ

国宝・彦根城築城410年祭プロモーションムービー「彦根に集え!」にアートディレクターとして関わったことから、今回のHACのアート展への出展が決まったと伺いました。特定の地域で行われるプロジェクトへの参加は、これまでもあったのでしょうか。
MAHARO
今回のように、映像制作に参加するのは初めてですが、新潟市の事業で古い魚の水揚げ場に壁画を描くなど、地域でのプロジェクトへの参加は何度か経験しています。今回は、ぼくらの出会った彦根市の方がすごく熱くて理解のある方たちなので、本気で「力になりたい!」と思えて楽しいです。

彦根城築城410年祭のプロモーションビデオ(以下、PV)の監督であるCEKAIの井口皓太さんとは2〜3年前からの知り合いで、今回はそのご縁でビデオ制作チームにと声をかけていただいたんです。「彦根城に妖怪が集まってくるというイメージで、ミュージックビデオのようなPVをつくりたい」という感じで頼まれて、実写の映像の上に載せる妖怪のイラストを描くことになりました。井口監督と組んで制作初期の段階から関われるとあって、とても嬉しかったですね。

制作はどのように進んだのでしょう。
MAHARO
PV制作にあたり、まずは滋賀県や彦根市にゆかりのある妖怪を探しました。地元の歴史に詳しい方に話を聞いたところ、ある絵本を教えていただいたので、そこに出てくる妖怪をピックアップしました。足りない分は、実写ビデオの撮影現場を井口監督と周るなかでイメージを膨らませ、オリジナルの妖怪に仕立てていきました。

井口監督のなかには当初から明確なイメージがあり、「このシーンではこういう妖怪を登場させたい」といった具体的なリクエストをいただけたので、制作はスムーズでしたね。ぼくが紙に描いたイラストをアニメーションとして動かすほうが、手間がかかって大変だったようですが。

ライブ感あふれる共同制作の楽しさと、一人で向き合う制作のしんどさ

所属するGROUNDRIDDIMのサイトでは、MAHARO氏の過去の作品を見ることができる。

普段はイラストレーターとして、どんな作品を描いていらっしゃるのでしょうか?
MAHARO
父親の仕事の関係で、高校時代シンガポールに住んでいたことも影響しているのか、アジアのテイストが大好きなんです。モノクロのこともあるし、色を使うこともあります。テーマについても、これじゃなきゃ、ということはなくて、その時の気分ですね。

子どもの頃からグラフィティやタトゥーなどのヒップホップカルチャーやアメコミが好きで、よく描いていました。イラストレーターになろうと思っていたわけではないのですが、自分にはこれしかできなかった、という感じです。今は特に大きな作品は、祖父から受け継いだ築70年ほどの古民家をアトリエにして、制作しています。

制作では、どんなことに気をつけていますか?
MAHARO
最後までやり切るというか、途中で終わらないように、ということですね(笑)。楽しいと最後まで勢いに乗ってつくれるのですが、やっぱり途中でモチベーションが落ちてしまうこともある。最初から最後まで高いモチベーションを保ちながら自然に制作できるようにしたいな、というのが毎回の課題です。
「こういうことやりたい!」と意気込んで始めても、うまくいかなくて、「うーん……」と悩んでしまうことって多いですよね。どんな方でもそうだと思いますが、その「うーん」が長引くと、気持ちが落ちていってしまう。特に描き始めるまでがしんどいです。
HACのPV制作でも、悩む場面はありましたか?
MAHARO
あのPVは、井口監督のイメージがしっかりあってそれに沿って力を出せばよかったので、大丈夫でした。チームで制作する時は、お互いに相談もできるので、テンポよく進められることが多いんです。
井口監督がキレキレで楽しかったなあ。CEKAIの京都オフィスにみんなで集まって、合宿みたいにわーっと盛り上がってつくったんです。あのオフィス、長屋みたいですごくいいんですよ。ビデオ編集をしながら、「じゃあ、次これ描いて」という感じで、その場でどんどん進んでいく。ライブ感がありました。参加できてすごく光栄でしたね。周りの評判もよかったです。

問題はテーマ設定から制作までを自分一人でやる時です。描き始めるまでがいつもしんどくて。だからこそ、抜け出せたときの達成感はめちゃめちゃすごいものがありますが。

「想像上の国CIMHの絵師から彦根城へ奉納される、1対の屏風」

現在、HACのアート展に向けて新作を制作中だそうですが、こちらは一人なので、大変ですね。
MAHARO
そうですね……。ときどき海釣りに行ったりして息抜きしながら、やっているところです。先日も、シイラを釣りましたよ。
実際のところ、まだ全然できてなくて(笑)。頭の中ではできているのですが、テンポよく進むところと進まないところがあって。気合いが入っている分、考え直したりしちゃうんですよね。

制作中のHAC出展作品。金屏風の上にアクリル絵の具でカラフルな面が描かれている。「まだレイアウトだけなのですが、ツノガエルがおめでたい服を着ているところです」。

MAHARO
今回は、大小2枚の屏風を対で出展します。ぼくの頭の中にある、架空の国の絵師が彦根市に寄贈する、という設定でつくっているんです。屏風に描くのは、その国のめでたい生き物と神様。無国籍だけど、日本からさほど遠くもない、アジアのエッセンスを持つ国の謎の絵師がつくったおめでたい屏風(笑)を、友好都市である彦根市に奉納する、というイメージです。「彦根城築城410年おめでとう。お城にぜひ飾ってください」という気持ちを込めてね。

後日MAHARO氏から届いた制作風景。ツノガエルの模様や着物の柄、背景などが描き込まれている。

MAHARO
今回のHACに限らず、作品をつくる時は自分の頭の中のイメージを大事にしてつくるようにしています。ぼくのイメージするぼくの国だったら、なんでもありで自由じゃないですか。そういう設定の方が、面白いものができることが多いんです。
そんな中でも、決まり事というほどではありませんが、心がけていることが1つあって。それは、アジアのテイストを入れるということです。
これまでの作品を拝見しても、一見アメリカのグラフィティのようでいて、モチーフは中国風だったり日本の浮世絵をアレンジしたりと、「東洋」を強く感じます。なぜそこまでアジアが好きなんでしょう?
MAHARO
アジア人だから、でしょうね(笑)。海外に行った時にも、アジア的なもので示したほうが、ぼくらのことは伝わりやすいし、何よりぼくら自身が一番知っているところでもあるじゃないですか。
お寺や日本画、仏像なんかもモノとしてすごく好きです。お城の場合は、鬼瓦がかっこいいな、と思いますね。ごつい中に繊細な細工のあるものが好きなんですよ。男子ですよね(笑)。子供の発想というか。

MAHARO氏提供の制作風景。「小さい方の屏風にはバッタを描いています。バッタは五穀豊穣、繁栄のイメージ。この国の縁起物なんです」。

多様な人が集まるHACだから、パワーを感じることができるはず

「彦根城は大きくはないけど、バランスがよくてかわいらしいので好きです」と笑うMAHARO氏。「前回は近江牛のステーキがおいしかったなあ。彦根グルメも楽しみの1つです」。

HACでは、MAHAROさんら4名のアーティストによる展示と、美術系の学生を対象にした地域滞在型アートプログラム「HIKONE STUDENT ART AWARD」が行われます。
MAHARO
若い子の展示もあるんですね、それはぜひ見てみたいです! また、同じ会場で展示する他の作家の方の作品もすごく楽しみにしていて。立体作品を出す方もいると聞いているので、一緒に並べた時どんな風に見えるのか、今からわくわくしますね。ぼくの作品が邪魔をしなければいいですが(笑)。

たくさんの人が集まってつくるグループ展って、独特の面白さがあると思うんです。彦根に関係するものをつくる人もいるだろうし、全く関係なく、自分の好きなテーマで出品する人もいると思います。そうした多様な作品が集まったときに、全体としてどういう見え方をするのか。集合体としてのパワーも感じることができるはずなので、とても楽しみです。

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