話題のプロモーションムービー制作陣の作品が今、彦根城に集結!

HACアート展体験レポート・クリエイティブディレクター井口皓太氏(CEKAI)インタビュー

昨年12月に公開されたプロモーションムービーが滋賀県内外を問わず話題をさらい、「彦根に集え!」の合言葉とともに始まった「HIKONE ART CASTLE」、通称「HAC」。現在、そのプロモーションムービーに関わった4組のアーティストによる展示が彦根城の「天秤櫓」で公開中だ。12月10日(日)のフィナーレを前に、HAC総合ディレクター、そして参加アーティストの1人でもあるCEKAIの井口皓太氏に話を聞いた。

アート展の会場は、彦根城防衛の要所「天秤櫓」
ここに、4組のアーティストの作品が展示されている

天守へと上る道の途中に現れる天秤櫓。国の重要文化財にも指定されている。

左右対称の外観から、江戸時代にはすでに「天秤櫓」の名前で呼ばれていたそう。敵が攻めてきた際には手前にある橋を落とし、高い石垣で天守への侵入を防ぐ役割を担っていた。

現在、横に広い櫓の内部を生かして4組のアーティストの作品が展示されている。

HACのイメージカラーは「井伊の赤備え」と同じ赤。

ここでひとつ、みなさんは覚えているだろうか。
昨年12月に公開されて以来、SNS等で「かっこいい!」「彦根で何があるの!?」と話題になった国宝・彦根城築城410年祭プロモーションムービー「彦根に集え!」。


プロモーションムービー「彦根に集え!」

この制作に協力したアーティストたちが、制作終了後にそれぞれの思いでつくり上げたのが今回展示されている作品だ。
あの斬新なムービーの先で、いったいどんなものができ上がったのか。公開初日、さっそく足を運んでみた。

410年前の建物と、最先端のアートが織り成す異空間

天秤櫓の薄暗い入り口を抜け、奥に進むとまず目に入るのが力強い筆使いで書かれた「不易流行」の文字。「城・戦国江戸期の不易流行表現」がこのアート展のテーマだ。

迫力満点の書が観覧者を出迎える。文字は、書家・前田鎌利氏によるもの。

まず最初の作品は、書家 前田鎌利氏の「念い(おもい)」。

「城」を守るように、戦国武将の旗印をイメージした幟が並ぶ。

彦根市民や市内の小学生がそれぞれの“念い(おもい)”を込めた漢字1文字を幟(のぼり)に書いた、市民参加型の作品だ。前田氏が語る作品への思いと制作の様子はこちら

前田氏は他にも「国宝 彦根城 築城410年祭」の題字や、先ほどの「不易流行」の文字を手がけている。
全部で625マスある碁盤の目に、個性豊かな幟がぎっしりと並ぶ様子は圧巻だ。幟は会期中数回にわたって入れ替えられるそうで、少し期間をあけて見に行けば、また違った表情が楽しめる。

続いてはプロモーションムービー「彦根に集え!」制作のアートディレクターであり、ムービー中の妖怪の絵などを手がけたイラストレーター MAHARO氏の作品。

金屏風の上にカラフルなアクリル絵の具でツノガエルとバッタが描かれている。

「彦根城築城410周年を祝して太平洋にある小国CIMHから寄贈された屏風」という、MAHARO氏自身が作った設定で描かれた作品だ。
MAHARO氏へのインタビュー、制作の様子はこちら

自らを“架空の国の絵師”に定めて描かれたビビッドな作品が、天秤櫓の歴史ある壁面に飾られているという、いい意味での違和感。それはまるで、今も彦根城には城主がいて、彦根藩の統治が戦国時代から絶えずに続いているような、こちらまで異世界に迷い込んだような感覚に陥る。

そして3つ目は、彫刻家 淺野健一氏の作品「古の戦神」。

漆やニカワを使用する日本の伝統技法でつくられた、木彫りの仁王像。

「阿」「吽」の文字の提灯とともに、仁王像の頭部が2つ展示さている。淺野氏へのインタビュー、制作の様子はこちら
プロモーションムービーでは、審査会場に突然現れた謎の女性がつけているお面として淺野氏の作品が用いられた。

プロモーションムービーで使われたお面も一緒に展示されている。

バーチャルの格闘ゲームに出てくるような仁王像の頭を現実につくることで「夢と現実、生と死、あるいは異世界との境界線を曖昧にする」というコンセプトでつくられた作品はどこか妖しく、厳かな雰囲気をたたえている。

そして最後は、HAC全体のクリエイティブディレクターを務める、井口氏率いるCEKAI(世界)の作品。
ドイツ製の透過ディスプレイを外枠に使用、中には彦根城主・井伊直孝の甲冑を再現した赤備えが据えられている。ディスプレイには音楽に合わせてさまざまな幾何学模様や映像が映し出される。

取材中に見かけた、映像に合わせて踊る女の子。

「作品のテーマは“in”と“out”。410年前の甲冑を、最新の技術が囲っているイメージです。映像の白い部分は透けて、黒は透けないようにできているので、前面と背面で違う映像を流して立体的に見せています」と話してくれたのは、CEKAIの代表であり、HAC全体の企画者でもある井口皓太氏。
この日、作品の設営のために彦根を訪れていた井口氏に、今回の企画への思いや今後の展開について話を聞いた。

「彦根だから」ではなく、どこでやっていてもおかしくない最先端のものを

HACの前段階として制作されたプロモーションムービーでも、クリエイティブディレクターを務めた井口氏。

天秤櫓の格子窓を背にインタビュー。

「ムービーをつくることになってまず考えたのは、彦根をどう表現するか。最初は名物とか見どころを撮影してまとめようかと思ったけれど、それでは面白くない、となって。宣伝になるものを探すのに溺れ過ぎて、結局は誰のためにもならないものをつくってはいけないと考え直しました。それなら何か面白い仕掛けが生まれるものにと、プロモーションムービーというより“ひとつの作品”を目指しました」

その結果生まれたのが、あの斬新な映像だ。
「いろんなクリエイターが集合して、3ヶ月ほどでわーっとつくりました。こんな形はあまりないです。正直、めんどくさいから(笑)。撮影は全て彦根で。あえて『今から彦根で何かが起こるぞ』という終わり方にして、ふっかけました」
だから、「制作に関わったアーティストがこの場所で展示をするのは当然な考え」だという。

CEKAIの作品には、井口氏の専門である映像の技術が大胆に取り入れられている。

4つの作品に対する感想も聞いてみた。
「いずれもストリート色が強いと思います。プロモーションムービーをつくったメンバーそれぞれの持ち前のトーンが出ている。CEKAIの作品については『彦根だから』ではなく、どこでやっていてもおかしくない、自分の中で最先端のものをつくりました。これは、よく言われる“まちおこし”へのアンチテーゼというか、メッセージのようなもの。例えば今、都市部に住んでいる人たちが地方を題材にして何かやっていたりするけど、それって地方を“嗜好品”として愛でているだけだなと思って。今、東京も彦根もオリンピックが開催される2020年に向かっている。どの地域も同じ日本なのだから、日本として楽しんでもらおうという空気感が大事だと思います」

一方で、8月から9月にかけて開催された「HIKONE STUDENT ART AWARD」で審査委員長も務めた井口氏。
「プロたちが普段自分の領域でやっていることを持ち込んだのに対して、学生の作品は地域や場所を意識した、ここで作る意味を作品に落とし込んでいるものが多かった。“地に返す”ことを自然に、でもちゃんと考えていて『まいった!』と思いました。審査員の意見も割れて、『ここに馴染んだものをつくったからいい』のか『作品として異物感があるものがいい』のかを議論して考えました。今年のグランプリは地域型の作品です。でも来年も続くなら、次は必ずしもそうじゃない。来年はもっと地方とか関係なく、他府県にも届くような強いものを、となっても面白いですね」

井口氏が最後に語ったのは「まちおこしに興奮しちゃいけない。大事なのは参加者が楽しむこと」。作品から何かを受け取り、感じることができるアートイベントは、私たち見る側も十分な”参加者”になり得る。
天秤櫓での展示は12月10日(日)まで。

作品を見たとき、自分の心がどう動くのか。それを知るために、出かけてみてはいかがだろうか。

(文:林由佳里/撮影:川村憲太)

Date