学生ファイナリスト20名が生み出したのはどんな作品だったのか。

新しい視点で捉えた彦根の魅力、受け継がれるべき文化とは?

2017年9月23日〜10月1日、「HIKONE STUDENT ART EXHIBITION 2017」が開催された。8月に1週間彦根に滞在し、フィールドワークを行った学生ファイナリスト20名が、それぞれの作品をもって再び彦根に集結。展示会最終日には審査が行われ、アワードのグランプリほか各賞の受賞者が決定した。20名の目に映った彦根はどんな場所だったのか。そしてそれを元にできた作品とは? 彦根市で行われたアート展とアワードの模様をレポートする。

彦根ならではのアプローチから、独自のテーマを追った作品まで

展示会場となったのは市内に3カ所。彦根城近くの「宗安寺」、「スミス記念堂」、そして250年の歴史をもつ寺小屋をギャラリーにした「寺子屋力石」だ。

以前こちらの記事でも紹介したように、今回の参加者たちは写真や映像、彫刻や油絵までさまざまな専攻の学生で、幅広いジャンルの作品が出揃った。全作品の概要はこちらでご覧いただけるが、ここでは10月1日に行われたプレゼンツアーをもとに数作品を紹介する。

学生一人一人が、審査員に向けて作品のプレゼンテーションを行った。

もっとも多くの作品が展示された会場は宗安寺。お寺の多大な協力により、参道から境内、仏殿や回廊に至るまで、あらゆる場所に作品が設置された。

まず参道脇の水路には、森萌衣(めい)さんの「水の端 巡る管」。彦根の水にまつわる物語を元にした絵を描き、濡れないようコーティングして水路に並べた。淡い日本画風の絵の上に水滴や水の流れができる様が美しい。

宗安寺前の水路。森萌衣(めい)さんの作品「水の端 巡る管」。

屋内でインパクトがあったのはご本尊の祀られる内陣(ないじん)をすだれで仕切った伯井慶伊子さんの「想造」。目には見えないものに対して祈りを捧げる場で、目に見えるご本尊を囲い見えにくくすることで、より強く想像をかきたてるという仕掛け。なんとこの作品は、後に紹介する吾郷佳奈さんの作品「View( horizon )」とともに、展示終了後、お寺の常設展示作品になるという嬉しい功績を得た。

宗安寺のご本尊前。伯井慶伊子さんの作品「想造」。

そのほか回廊を効果的に使って一人の芸子とスナックの歴史を追った山本法子さんの「時代」や、境内で水と苔をモチーフに「流れ」と「留まり」を表現した志賀耕太さんの「Transfer」など11の作品が公開された。

宗安寺のご本尊前。伯井慶伊子さんの作品「想造」。

宗安寺の境内。志賀耕太さんの作品「Transfer」

宗安寺の回廊。山本法子さんの作品「時代」。

続いては場所を変えて「寺子屋力石」へ。入り口には方山玲子さんの映像作品「あの井戸」。これは「寺子屋力石」前に残る井戸が、じつは江戸の井伊家の井戸と地下通路としてつながっていたのではという仮説を元にドキュメンタリータッチで描かれた映像。あくまでフィクションだが、登場人物がインタビューに答える様子はリアリティに満ちている。

建物の2階には写真や映像などの作品が集まった。山口駿さんの「受継」は、彦根各地で撮った写真をアニメーションやCGを交えて映像化。文化の「受け継がれていく」様子を感覚的に捉えられる作品に。一方、片山達貴(たつき)さんの「My Body」は彦根という場所性に捉われず、自身のテーマを追求した写真展示を行った。入れ墨の入った人物を独自の視点で見た、アート作品として完成度の高い写真を提示。観る者に強い印象を残した。

寺子屋力石の2階に展示された片山達貴さんの「My Body」

掛け軸を映像で表現した作品「蓄積」。市川稜さん作。

「一期一会」をコンセプトに3冊の冊子をつくった赤松健太さんの「中高生の『一期一会』」

三つ目の会場、スミス記念堂では建物前の広場に2作品が展示された。そのうちの一つ、菊地風起人さんの「彦根ベースキャンプ」は、自らテントを建てそこに寝泊まりしながら作品を完成させていくというコミュニケーションアート。菊地さんはこの先も彦根に通い、この拠点を進化させていきたいと話した。

菊地風起人さんの「彦根ベースキャンプ」

いよいよ、結果発表へ

20作品を見学するツアーが終わり、審議時間を経て、いよいよ結果発表に入る。
この夏の制作の成果が決まるとあって、会場には緊迫した空気が流れていた。審査基準は作品の完成度と、アワードのテーマである「不易流行」を表現できているかどうかの2点。

まずはそれぞれの審査員より総評が述べられた。今回審査委員には、主催者でもある国宝・彦根城築城410年祭推進委員会の小出英樹会長ほか、株式会社スマイルズの遠山正道さん、アートプロデューサーの山口裕美さんを迎え、CEKAIの井口皓太さんが審査委員長をつとめた。

小出会長は「普段私たち彦根市民が目をつけないようなことにも若い皆さんが着目し、作品に昇華させてくださったのは素晴らしいこと。また彦根にお呼びしたいのでこれからもよろしくお願いします」とコメント。

遠山さんは、「想像していたより3割増で良かった。すべてがマーケティング的になっているこの世の中で、自分発であること、自分ごと化することがますます大切になっている。今回皆さんが彦根でなぜこれをつくるのか、時間をかけて深堀りしたように、これからは外からどれだけどうして?と問われ続けても打ち返していけるだけの強い理由や必然性を自分の中に持ち続けてほしい」と話した。

一方で山口さんは「みんなきっと彦根というフィールドを好きになってしまったんですね。そのことがある面では災いしたかもしれない」とコメント。
「普段つくっている作品と違って、彦根に寄せて作品づくりをした人が多かったんじゃないでしょうか。そうした作品を審査をするのは難しかったし、みなさん本当に僅差でした。アーティストとして生きる時間はまだまだこれから長いのでこれを糧に頑張ってほしい」

最後に井口さんはこう締めくくった。
「みんな彦根のことをリサーチしてしっかり考えてるんだなって感心する部分がたくさんありました。確かに少し彦根というまちの魅力に引っ張られて、作品としての完成度や見る人を楽しませる要素が弱かったかもしれません。でもこうした機会から新しいものをつくるエネルギーがどんどん生まれていったらいいなと思っています」

その後、さっそく発表へ。まずは小出会長より審査員特別賞の発表。
小出会長は「吾郷佳奈さん、View( horizon )」と読み上げた。わぁっと歓声が起こる。その後、準グランプリに、植村宏木さんの「にはたづみ」。続いて、同率2位でもう一作品、石毛健太さんの「最も遠い南国、動かない石」が準グランプリとして発表された。そしていよいよ最後、グランプリは……安田泰弘さんの「究極の一石を投じる」が受賞!

<2017年・受賞結果>
グランプリ
安田泰弘さん「究極の一石を投じる」

準グランプリ(同率2作品)
植村宏木さん「にはたづみ」
石毛健太さん「最も遠い南国、動かない石」

審査員特別賞
吾郷佳奈さん「View( horizon )」

彦根の伝統産業や、琵琶湖という水のつながりをテーマに

各受賞作についての詳細は、以下の通り。

ギャラリー「寺子屋力石」で作品「究極の一石を投じる」を説明する安田泰弘さん。

安田さんの作品「究極の一石を投じる」は、彦根の伝統産業、仏壇づくりの技術の価値を再発見する体験型のワークショップ。琵琶湖で拾ってきた石に漆、蒔絵、金箔で模様を施し、これを川に捨てる行為を通して価値を改めて感じてもらう。模様の描かれた石と、ワークショップのようすを収めた写真、ポスターが作品として展示された。伝統的な要素を踏まえながらコミュニケーションアートの手法も取り入れたバランスのよい作品と評価された。もともと大学で漆にまつわるプロジェクトに参加してきたという安田さんは、「ブランディングデザインが自分の関心領域。価値のつくり方を研究していきたい」と話した。

準グランプリを受賞した、植村宏木さんの作品「にはたつみ」

準グランプリの植村さんの作品「にはたつみ」は、寺の本堂前の向拝所両脇に置かれた。にはたつみとは、地上にたまり流れる水のこと。「昔から今に至るまで彦根は水を通してつながっている」と感じた植村さんは、参道から琵琶湖に向かって流れる水を意識できるものをと本作品を制作。木を焦がす手法でつくった板に、ガラスの粉を埋め込み水の流れを模した。

準グランプリを受賞した、石毛健太さんの作品「最も遠い南国、動かない石」

もう一作品、準グランプリとなった石毛さんの「最も遠い南国、動かない石」は、「もともと宗安寺にあった面白いものをより面白く表現しようとしたもの」と話す。境内にアルゼンチンの石があることに着目。この石について書かれた看板を再現し、庭には石とハンマーを設置。映像に地球の捻転運動とアルゼンチンの石工の話を入れ、それぞれの要素にストーリーをつけた。一つ一つは独立した物語でも、それぞれが影響し合う部分は見ている人に委ねる。「新しい視点を提供する」アートの役割を意識してこの手法を選んだという。

吾郷佳奈さんの「View( horizon )」

吾郷さんは、やはり「彦根と水の関りが気になった」とし、水面をのぞき込んだような体験ができる鏡状の作品を宗安寺の客間の卓上に設置。この板に、琵琶湖やお堀で撮った写真のコラージュから模写した線画を描いた。

「自分発であること」の大事さと、長い目で流動的に彦根と関わっていくこと

授賞式終了後、スマイルズの遠山さんに話を伺った。
ここ数年、自身も芸術祭に作品を出品しているスマイルズ。ビジネス的な面からも、アートに学ぶことは大いにあるという。

「最近はビジネスをやるにしても個に根ざしたものじゃないだめだと思っているんです。規模が小さいほど思い切ったことができるし、ユニークなことをどんどん生み出していく方が面白い。その点、アートの世界では“自分発”が当り前。そこから学ぶことも多いし、一方でアートの世界もコンセプチャルなものに縛られすぎて結局何がやりたいんだっけってなっている面もあると思うんです。ビジネスもアートももっと素直につくりたいものをつくり、結局誰が何をしたいのか、“個”に立ちかえるべきという気がしますね」

最後に、すべてを振り返っての感想を井口さんにも伺った。

「山口さんが仰っていたように、よくも悪くも作品が彦根という場所性に引っ張られた印象はありますよね。それが、作品を創造する意義を一番見つけやすかったとも言えます。不易流行といっても捉え方によって時代や場所に左右されない強さや、モノの存在感で表現することもできるわけで。たとえば入れ墨の写真を出した片山さんは、彦根というよりも個人的なテーマ性を重視した分、異質感を放っていてとても面白かった。ぱっと見たときの華やかさや存在感のある作品がもっとあっても良かったと思います」

さらにHIKONE ART CASTLEイベント全体の中で、このアワードを実施した意味、今後の展望については。

「彦根に長くいると、ついここで作品をつくる意味を考えてしまいがちですが、どこにいても面白い人同士がつながって価値を生み出していくようなスケール感を追う視点も忘れちゃいけないと改めて思いました。彦根に人を集めることにやっきになるより、流動的に人がつながって出入りする方が価値があるかもしれない。そのためのきっかけを、今回は皆さんがたくさんつくってくれたと思います」

初めて訪れた彦根で、そこの風土や人、文化に出会い、作品にしていくプロセスを体験した学生たち。彼らはこのまちからどんなインパクトを得たのだろう。これからの彼らの活躍と彦根との関わりに表れてくるはずだ。第一回目となった作品展「HIKONE STUDENT ART EXHIBITION 2017」とアートアワード。これで全プログラムが終了ということで、本レポートの結びとしたい。

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