清凉寺で坐禅体験。日常の喧噪を忘れて「無」になるひとときを

心洗われる荘厳なお寺

彦根は、お城を中心に栄えた城下町だけあって文化の香り豊かなまちだ。江戸時代より彦根を治めてきた井伊家にゆかりのあるお寺も多い。清凉寺もそのひとつ。井伊家の菩提寺として創建され、歴代藩主の墓所となった。

山門をくぐり広々とした境内に足を踏み入れると、まずそのスケール感に圧倒される。
境内の奥には御本堂、右手に建つ大きくて立派な客殿、そして左にかつて全国から修業僧が集まったと言われる坐禅堂がある。境内に吹き抜ける風が心地よく、静粛な気持になれる場所だ。

佐和山のふもとにある清凉寺の本堂。石田三成の家臣・島左近の屋敷跡につくられたと言われている。

客殿

この坐禅堂では、今も希望者は坐禅体験を行うことができ、誰もが参加できる定例会も毎月一度行われている。今回取材班も短い時間だったが、坐禅体験をさせていただいた。

多くの僧が出入りした道場で、坐禅体験ができる

案内してくれたのは、ご住職の村瀬行寛(むらせ・ぎょうかん)さん。凛とした表情に物腰の柔らかな方だ。

「江戸時代、井伊家は徳川の重臣でとても権威がありました。その菩提寺であるこの寺は、裕福な寺だったんです」

関ヶ原の戦いで活躍した井伊家の権勢は、そのままお寺の力になった。さらに、多くの僧が出入りするお寺だったのだそう。

「この寺の住職になる僧は、井伊家が全国から、今の言葉で言えばスカウトしてきたんです。みな一流のお坊さんだったので、その人に学びたいという僧が全国から集まったのです。中山道にも近く、旅の修行僧も集まりやすい環境だったのかもしれません」

とくに曹洞宗(そうとうしゅう)では教えの基本に坐禅を据えていたこともあり、集まった僧はこの寺で坐禅修業を行った。1800年初期に全国で唯一の百人詰の坐禅堂がつくられたのだそう。今の坐禅堂道場は昭和61年築のものだが、やはり約100人を収容できる。
毎月第三日曜日の午前中には、白雲会(はくうんかい)と呼ばれる坐禅の月例会が行われていて、電話予約をすれば誰でも参加することができる。(詳細はページ下)

坐禅とは、本来目的をもたないで行うもの

村瀬さんに坐禅の目的を聞いてみると、こんな答えが。

「体験で来られる方の中には、普段の忙しさから離れて心を落ち着けようとか、姿勢をよくしたいなどそれぞれ理由があるかもしれませんが、坐禅とは本来そういうものではなく、目的をもたずに行うものなのです。敢えて言うなら、ただ座るというだけ。過去の行いや出来事、これから起きることを全部自分の中から捨て去って、ただ座るということ。それが今生きている実感や生かされていること、日常のありがたさに気付くことにつながります。ひと言では言えない奥深いものなのです」

とはいえ、「初めから坐禅の本質がわかるのは無理なこと。まずは体験してみて、感じたり学んだりしてもらえたら」と笑顔で話してくれた。
その言葉にほっとしたところで、さっそく私たちも体験させていただくことに。

坐禅堂の入り口。

本格的な坐禅道場に、緊張する

お堂へ入ると、立派な観音菩薩が姿を現す。広々とした畳の間を通り、2階へ。渡り廊下のような場所の、窓際には一段高い畳の敷き詰められたスペースが広がっていた。坐禅用の丸いクッション(座蒲ざふ、という)がいくつも並ぶ。坐禅のための空間である。さらに内側の部屋に入るとこちらも同様。これが、坐禅道場だ。

村瀬さんの説明に促されるまま、壁に向かって立ち一礼し、さらに180度まわって再び一礼。座蒲を整えて、この上に胡座で座る。呼吸を整えたら、鐘が3回鳴って坐禅の始まり。
この日は蒸し暑く、集中するのが本当に難しかった。あれこれ浮かんでくる雑念を心の中で追い払い、追い払い……ようやく頭の中が真っ白になったかと思えば睡魔が襲ってくる。いやはや15分の長く感じられることと言ったら(!)

ようやく鐘が鳴り、終了。
足をほぐして座り直し、しばらく村瀬さんの法話に耳を傾ける。

「短い時間でしたがいかがでしたか。いろんなことを感じたり考えたりされたことと思います。今日は短い体験でしたので行いませんでしたが、普段は私も警策などを使って姿勢の乱れを正します」

初めての坐禅で感じたことの振り返り、周りの人たちとともに坐禅を行ったことへの感謝、道元禅師の教え、普段の行いや当り前のことに謙虚な気持を持ち続ける大切さに坐禅を通して気付いてもらえたら……といった話を伺って、この日の体験はこれにて終了。

開かれた学びの場へ

ここで、清凉寺にまつわる逸話を少し。
いま清凉寺があるのは、関ヶ原の戦いで敗れた石田三成の家老・島左近の屋敷があった敷地だった。そのため「七不思議」と呼ばれる怪奇現象が起こることでも有名だ。
正面の山門は、毎年大晦日の晩に風もないのに唸り声が聞こえてくる「うなる門」と呼ばれているとか、裏手の「晒しの井戸」では水に汚れものを浸けておくだけで真っ白になるという。本堂前にある樹齢700年以上のタブの大木は、たびたび娘に化けて参拝客を驚かせる……など、背筋の寒くなるような話が七つもある。こうした怪奇話が庶民に親しまれ、お寺のパンフレットにも載っているほど。すべて公開されているわけではないが、逸話のスポット巡りも楽しいかもしれない。

最後に話を伺うと、村瀬さんはこれからこのお寺を、より開かれた学びの場にしていきたいと考えているのだそう。

「何でもいいわけではないですが、お坊さんに限らず講師を招いてさまざまな分野のことを学べる場になればと思っています。ただやはり寺なので、最終的には手を合わせてほしい。形だけではなくて、内面的にも、生かされていることに感謝し、合掌すること。それが大事だろうと思っています」

江戸時代より周囲の人たちに親しまれてきたお寺、清凉寺。
彦根を訪れたら、雑事を忘れて心を落ち着かせる時間を体験してみてはいかがだろう。


参禅道場

TEL:0749-22-2776
住所:滋賀県彦根市古沢町1100

以前は修行僧の修業道場であったが、今は一般に公開して希望者が参禅している。月例会は毎月第三日曜日9時より、坐禅・法話・作務・精進昼食。坐禅のみの参加も可(200円)。初参加の方は必ず電話にてお問い合わせください。

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