旬な情報が行き交い、新しいことに出会える場所

美味しいランチも自慢のアトリエキッチン「VOID A PART」

個々で過ごすことも、繋がることもできるアパートのような空間

場所は彦根市の南部。おだやかな田園地帯の広がる琵琶湖岸を車で走るとふと目に止まる、前面のガラス張りが印象的な白い建物。2016年の春にオープンした「VOID A PART」だ。

ドライブにおすすめの湖岸道路沿いに位置し、背後には琵琶湖を臨む絶好のロケーション。
(写真提供:VOID A PART)

外壁に描かれた”Cafe. Atelier. Lab…”の文字どおり、ここは美味しい食事ができる「カフェ」であり、アーティストでもある店主が作品を制作する「アトリエ」、日々さまざまなイベントが行われる「実験室」という3つの空間が一つになった場所。
といっても空間を分ける仕切りはなく、広々とした店内は、その時々の用途によって表情を変える。

店主の周防苑子(すおうそのこ)さんは、廃材やドライフラワーを使って雑貨をつくるアーティスト。

高校時代を彦根で過ごし、大学は京都、東京のPR会社勤務などを経て2014年に滋賀県にUターンしたという周防さん。

「ものごころがついた頃には好きで集めていた」という廃材や、さびが浮いた雑貨、実家の生花店で花束をつくった際に出る細かな枝花などを使って何かできないかと、廃材×植物というコンセプトのもと自主ブランド「ハコミドリ」を設立。

廃ガラスで作った”ハコ”にドライフラワーを入れ込んだ、”植物標本”はハコミドリの人気商品。

自身のアトリエスペースを探す中で、琵琶湖岸にぴったりの空き物件を見つけ、VOID A PARTをオープンした。

店内のアトリエスペース。ハコミドリの作品は全てここで作られる。

解体された家から出る廃ガラスや、ガラス板を切り出す際に廃棄される切れ端などを譲り受けて加工する。

初めてこの建物を見た時、「すごくいい物件だけど、アトリエにはちょっと広すぎる」と悩んだという周防さん。琵琶湖のほとりという絶好のロケーション、広い窓から見える穏やかな風景、地元滋賀県で出会う魅力的な人々にふれる中で、「それならいろんな用途に使えて、人が集まる場所にしよう」と考えるようになったそう。

店内では、キッチンスタッフが作る美味しいランチを日替わりで楽しむことができる。

『papa – Aika Miyazaki -』の宮﨑さんが作る「papa季節のひとさら」。
地産地消の考えのもと、野菜のおかず6~8種、季節のハーブを使ったお肉料理、炊きたてのご飯を味わうプレートランチ。
(写真提供:VOID A PART)

他にも、彦根城の近くにある古書店「半月舎」監修によるライブラリー、周防さんが見立てた多肉植物の販売コーナーなど、異なる空間が溶け合うように同居する。

壁面の本棚にはマンガや小説、古い雑誌や絵本などがぎっしりと並ぶ。全て店内で閲覧可能、一部は購入もできる。

「形が面白いとかちょっと伸び過ぎたとか、変わったものが好き」という周防さんの目利きで仕入れた植物たち。

来た人それぞれが何も強要されず、思い思いの過ごし方を楽しめる場所。「VOID=空間、無限」「PART=区切る」が表す通り、無限の可能性を秘めた、集う人々が個々で過ごすことも繋がり合うこともできるアパートのような空間だ。

「あぁ、そうだったな、変わってないんだなって。
忘れていた地元のことを、思い出しました」

そんなVOID A PARTも、2017年11月でオープンから1年半を迎える。

「あのお店へ行けば誰かいるかも。あそこへ行けば何か新しいことを思いつくかも。そんな風に思える場所を、琵琶湖のそばにつくりたい」という周防さんの思いから生まれた空間。ここでは多くの人が出会い、滋賀県の”旬”な情報が行き交う。
琵琶湖一周のドライブ中に偶然見つけて立ち寄ったという人、雑誌やSNSを見て訪れる県外の人々、近所の大学生や、カフェタイムに一息つきにやって来る奥様まで、客層は幅広い。

店内に設けられた掲示板コーナーには、近隣のお店のフライヤーやイベント情報が所狭しと並べられている。

ライブや、デッサン会、英会話教室、春と秋に開催する「VOID MADE MARKET」など数々のイベントも毎週のように行われる。

周防さんとの偶然の出会いから実現した、Nabowaのヴァイオリニスト山本啓氏のソロライブでは、いつもとひと味違う幻想的な雰囲気に。
(写真提供:VOID A PART)

さまざまな縁で繋がった各地の作り手と、地元への感謝を込めた自主企画の「VOID MADE MARKET」。
(写真提供:VOID A PART)

この場所から彦根を見続けて、学んだことや挫折、変化したこともたくさんあると言う。

「まず痛感したのは、この土地の人は夜出歩かない、特に寒い日はほとんど外に出ないということ。ショックでした。あとは、単純に『おいしいごはんが大好き!』ということも。でもそれってよく考えたら、もともと自分が生まれ育った土地のこと。あぁ、そうだったな、変わってないんだなって。忘れていた地元のことを、思い出しました。それに気づいたら、考え方が変わってきて。今は、来てくれるお客さんにちゃんと応えられるように、ランチをやる日を増やして、面白いと思ったイベントはどんどんやる。持ち込み企画も大歓迎!この二つを大事にしながらやっていこうと思っています」

それでも「ここに来たら何か面白いことがある」と思われる場所でありたい。この思いはオープン当初から変わらない。

今は、「いい感じにわちゃわちゃしてきた」と話す周防さん。首都圏の良さ、地方の良さ、彦根の個性。その全てを体験した彼女が作る”場”がどんな風に進化していくのか楽しみだ。

「一日記者になろう!ライティング・ワークショップ」を開催

このVOID A PARTで、先日9月2日には「一日記者になろう!彦根の魅力を伝える HACライティング・ワークショップ」が開催された。

彦根市内で現在開催中の「HIKONE ART CASTLE (通称:HAC)」、その公式サイト内の「彦根に集え!」のコーナーに、市民ライターが地元を紹介する記事が今後掲載される予定だ。この日は、集まった有志の市民ライター約20名を対象に、書きたいテーマを絞り、取材やインタビューの方法を学ぶワークショップが開かれた。

プロのライターを講師に迎え、記事のテーマ出しから記事を完成させるまでのレクチャーを受ける。

参加者は、地元の高校生から市内でお店を切り盛りするマダム、他府県からの移住者と幅広い。
講師の甲斐さんからは、「まず読んだ人が、彦根に来て何らかのアクションを起こそう!と思えるような記事に」というお題が与えられる。

参加者はグループに分かれ、各自が持ち寄ったネタについて話し合う。会話の中から新たなネタが出てくることも。

「記事の中に、あえて個人的な感想を入れるのも効果的です。”共感ポイント”があると、人はアクションを起こしやすくなります」といったアドバイスを参考にしながら、用意されたシートに沿って取材時の質問や伝えたいポイントを整理していく。

3枚のシートを順に埋めていくことで、記事の概要ができ上がる。

普段自分が彦根の魅力として感じている「好き」「面白い」という気持ちを、記事にまとめて多くの人に見てもらう。記者という立場から、一般の客としては聞けないこと、取材先の舞台裏を知ることもできる。記事を書くことで、そうした全ての流れを楽しもうというプロジェクトだ。

ワークショップの最後には、各自が取材すると決めたネタを発表する。

なぜそこを取材したいと思ったか、どんな質問がしたいかなど、まとめた内容を発表する。

「よく前を通って気になっている小さなお店があって。看板が無いのですが、どうやら刃物研ぎ専門のお店らしいんです。どんな人がやっているのか、看板を上げない理由は?など、この機会に聞いてみたいと思います」

「ある老舗喫茶店のウエイトレスのおばあさんは、何十年も見た目が変わらない。一部では、途中で入れ替わっているのでは!?という噂もささやかれているので、その真相を確かめたいです」

などなど、聞いただけでワクワクするようなネタが次々と発表される。印象的だったのは「まずは自分が知りたい、そしてみんなにも知って欲しい」という目線で選ばれたものが多いこと。やはり、実際に暮らす人の目線は面白い。

ワークショプの後は、軽食を取りながらの交流会。

この日のケータリングは、グルテンフリーとヴィーガンをテーマに活動する「木下実験室」より。
地元産野菜をふんだんに使い、工夫を凝らした品々にみんな興味津々。

参加者からは、「最初は書くことばかり考えていたけれど、ワークショップに参加して取材が大事だということが分かった」「講義だけじゃなくて、他の人たちと彦根について話せたり、情報交換ができてよかったです」などの声が聞かれた。

ワークショップを終えてひと息。思い思いの話題に花が咲く。

この日まとめた内容をもとに各自が取材を行い、完成した記事は10月半ばから順次HAC公式サイト「彦根に集え!」に掲載される。ガイドブックには載らない、ディープな彦根の記事を読める日を楽しみに待とう。


(写真提供:VOID A PART)

VOID A PART

滋賀県彦根市柳川町218-1
営業時間:10:00~19:00(L.O. 18:00)
定休日:火曜日、水曜日
VOID A PART:http://voidapart.com
メール:voidapart@gmail.com
ハコミドリ:http://hacomidori.com

営業スケジュール、ランチの内容は10月1日以降のもの。

(文:林由佳里/撮影:宮村温子)

Date